松本 泉写真展-晴れと褻の狭間-銀座ニコンサロン
祭りを題材とした写真展です。
まず選んだ場所が絶妙です。(写っている看板や標識から察して)関西近郊、都心部から電車で小一時間ぐらい、それほどの田舎というわけでもなく、開発され損なって残されたままになっているという感じの農村地帯を舞台としています。祭りと言ってもよそから見物客が訪れるような大きな祭りではなく、地元の人たちのみでひっそり行われている祭りをこの作者は訪ね歩いているようです。娯楽が少なかった時代にこの祭りを唯一の楽しみとしていた老人達と、彼らに引きずらるようにして出てきた子供や孫たち、と言った人たちをカメラは収めています。
この写真家はちょっとイタズラをしています。祭りの主人公であるはずの御輿や山車といった類を一切被写体としていません。法被を着ていたり、風景にそぐわない背広姿の老人がいたり、しめなわが通りに渡されていたりするのを見て、祭りだということを察することができます。つまり作者は祭りの主体に背を向けて、御輿や山車が練られるいわゆる”ハレ”の状態から、それらが通り過ぎて元の生活に戻る”ケ”の状態、その二つの状態の狭間のぽかんとしたような、ちょっとした真空状態を写し取っています。
この写真家の立ち位置が微妙です。
つまり写真家の視点は祭られる主体側からの視点に重なります。例えば自分の葬式があって、棺桶からこっそり式の様子を眺めてみたら一体どんな風景が見えるだろうな、と想像したときのような一種の非現実感があります。
私はこれらの写真を見ていて何故か吉田知子の「お供え」という小説を思い出していました。突然写真を見ている私がふわふわと漂ってしまいそうな、奇妙な浮揚感のある写真です。
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